無門関第35則「せい子が二人に分身した」
遠い旅をして、故郷についたものの、いきなり二人一緒に父の張鑑(ちょうかん)の家を訪ねて行くのもどうかと思い、倩(せい子)を舟の中にのこして、まず、夫の王宙(おうちゅう)が一人で張鑑(ちょうかん)の家をたずねました。
張鑑(ちょうかん)の家につくと、王宙(おうちゅう)は、二人で勝手に駆け落ちした親不幸を心からお詫びしました。
すると、張鑑(ちょうかん)は不思議な顔をして、
「娘の倩(せい子)は、お前が故郷を出てから、すっかり病気になり、今でも自室で寝込んでいる」といいます。
今度は、王宙(おうちゅう)が驚いて、
「いいえそんなことはありません。私と一緒に五年も生活し、子供までできて、現に近くの船の中に待たしてあります」といいます。
張鑑(ちょうかん)が使用人を船に見に行かせると、たしかに船の中に倩(せい子)がいます。
その報告をきいて母親がそのことを自室に寝ている娘に告げると、娘は喜んで起きあがったが、「にた~り」と笑うだけで、ものを言いません。
一方舟の中にいた倩(せい子)が車にのって父の家へ来て、車から下りて、家に入りました。するとそれまで部屋で寝てばかりだったもう一人の倩(せい子)が起き上がって、出迎えにきました。
家の客間で二人が出会うと、病人だったもの言わぬと倩(せい子)と、蜀(しょく)の国から帰ってきた倩(せい子)が、喜んで抱き合い、そのうちに、ぴたっと二人が合体して、一人になつてしまいました。
倩(せい子)は、「本当に、私は自分の身体が家にいたなどとは、まったく知りませんでした。
はじめ恋しい王宙(おうちゅう)が恨んで去るのを聞いて、悲しくて堪えられません。
部屋で寝ているうちに、ガマンできなくなり、王宙(おうちゅう)を追いかけることにして、急いで走つて、やっと舟に追いついたのです」といいます。
父親の張鑑(ちょうかん)は、「王宙(おうちゅう)が行つてから、
娘の倩(せい子)は一切ものを言わず、終日、酔つたように部屋で寝ているばかりだった。
これは、魂(たましい)が身体から抜けたからだろう。
幸い、孫まで連れて倩(せい子)の魂(たましい)が帰ってきてくれたのだから、二人の結婚祝いの披露宴をしよう」
ということになり、お話としては、めでたし、めでたしとなりました。
(つづく)
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