「妙好人(みょうこうにん)」-赤尾の道宗-その5
稲盛和夫氏(京セラ、KDDI創業者)は、長年、京都の円福寺の西片擔雪(にしかたたんせつ)老師(臨済宗妙心寺派元管長、1922年生まれ~2006年没)を心の師と仰いでおられました。
1985年、京セラがファインセラミックスの人工膝関節を許認可を得ずに販売したということで、マスコミから集中砲火を浴びたことがありました。
それは、既に認可を受けていたファインセラミックス製の股関節を、医師の方々からの強い要望により、膝関節に応用したという事情がありました。
それだけに、稲盛氏としては、言いたいことが沢山あったようですが、稲盛氏は、あえて汚名を着せられたまま耐えようとしたそうです。
しかしながら、連日マスコミに書き立てられますと、その憤懣(ふんまん)は抑えきれるものではありません。
そんなときに、稲盛氏は、西片(にしかた)老師のところに行って
「実はこんなことがあって、大変な目に遭っているんです」
と話したところ、西片老師は、既に知っていたようで、第一声は
「それはしょうがありませんな。
稲盛さん、苦労するのは生きている証拠ですわ。」
というものでした。
稲森さんとしては、自分が悪いことをしたわけではないだけに、老師から慰めてもらえると期待しておられたそうです。
ところが、西片老師は、「それは当たり前だ」というだけで、少しも慰めてくれません。
少しがっかりした稲森さんに対して、さらに西方老師は言われました。
「災難に遭うのは、過去につくった業(ごう)が消える時です。
稲盛さん、業が消えるんですから、喜ぶべきです。」
「今までどんな業をつくったか知らんが、
その程度のことで業が消えるのなら、
お祝いをせんといかんことです」。
その言葉は、稲盛氏を立ち直らせるには、最高の教えであったと稲盛氏ご自身が、ご著書(『稲盛和夫の哲学』PHP研究所)に書かれています。
「災難や不幸や理不尽な出来事に会った時は、
そのおかげで過去の罪業が消えて、
より良い人生が送れるようになるのだ」
と考えて、逆境を前向きに受け止めることができれば、まさに達人の境地というべきでしょう。
道宗は浄土教の信者、西片老師は禅僧ですが、期せずして同じことを言っているように思います。
私たち凡人には、難しいことかもしれませんが、つらい状況、苦しい状況にあるときには、参考にしたいエピソードです。