『無門関(むもんかん)』について
さて、『碧巌録(へきがんろく)』の提唱録の中で、本文をすべて提唱したものは、私が知る限り、山田無文(むもん)老師の『碧巌録全提唱』全10巻(禅文化研究所)だけだと思います。
山田無文老師の『碧巌録全提唱』は、菊版(縦22センチ×横15センチ)という一般のビジネス書より一回り大きな判型で、本格的な装丁がされています。
1巻あたり4百数十ページもあり、全10巻合わせれば、5千ページ近い大冊です。私たち在家の人間にとって、とても読み切れる分量ではありません。禅僧の方でも、全巻を読破された方は決して多くないと思われます。
『碧巌録(へきがんろく)』は、あまりに分量が多いので、下語(あぎょ)評唱(ひょうしょう)といわれる部分をカットして、垂示(すいじ)・本則(ほんそく)・頌(じゅ)といわれる部分だけを提唱している本が普通です。
下語(あぎょ)評唱(ひょうしょう)まで含めて、すべて提唱された本が、山田無文老師の『碧巌録全提唱』ですが、そうすると全10巻、5千ページという膨大な分量になってしまうわけです。
『碧巌録(へきがんろく)』にくらべて、『無門関(むもんかん)』は、はるかにシンプルです。漢文の本文に書き下し文と現代語訳をつけて、岩波文庫本で216ページです。それでいて、シンプルゆえの良さがある本です。
岩波文庫本の西村恵信師(禅文化研究所所長、花園大学元学長)による解説文から、『無門関(むもんかん)』の魅力を説明した部分を引用いたしましょう。
「注目すべきは、『無門関(むもんかん)』の端的(たんてき)にして無作為(むさくい)なる点である。
『碧巌録(へきがんろく)』や『従容禄(しょうようろく)』のような文学的作為の強い公案集ではなく、ずばり公案工夫の材料を差し出すことによって、公案の機能を際立たせている。
質量ともに単純明快なこのテキストは修行者が懐中(かいちゅう)にして坐禅に励むことさえできるコンパクトな語録であった。」
(岩波文庫本解説より)
『無門関(むもんかん)』は、質量ともに単純明快なテキストではありますが、禅の魅力を存分に伝えてくれます。
次回以降のブログで、『無門関(むもんかん)』から、古来有名な禅話を順次ご紹介していきましょう。