『禅と陽明学』より「儒教と老荘と禅」
安岡先生の解説によれば、「易」(えき)は、この世界の発展の根本原理を教えるものです。
「太極(たいきょく)」という根本的な大自然の生命力が、陰陽の原理によって、生命が進化するように発展していくというのが「易」(えき)の世界観です。
このようなの自然界の法則は、人間の精神にも当てはまります。
それは、儒教や禅などの教えのあり方に影響しているというのが安岡先生の見方です。
>分かれて伸びるという陽の働き、
>これを全(まつと)うするためには、
>陰原理によってこれを剪定(せんてい)し、
>果決(かけつ)する。
>そうして初めて全(まつた)き生、
>永遠の生、永生、全生が期待される。
(『禅と陽明学』上巻p.156)
「陰陽」の「陽」とは、分かれて伸びる働きです。「陽」の働きにより、自然界も人間世界も、どんどん発展分化していくわけです。
しかし、自由奔放に伸びるがままにしていると、全体として混乱したり、枝葉末節にばかり栄養がいって、根本的な生命力が浪費されて弱まることがあります。
そこで、「陽」の働きをより完全なものとするためには、「陰」の原理により、枝葉末節を適切に切り落とす(剪定:せんてい)ことが必要です。
また、最も豊かな実をならせる花を選んで、それ以外を間引くという果決(かけつ)という働きも必要になります。今風にいえば、「選択と集中」ということでしょうか。
果決(かけつ)という言葉は一般的にはあまり聞かない言葉ですが、インターネット辞書には「堅忍果決(けんにん-かけつ)」という四字熟語があります。
「耐え忍ぶべきは堅(かた)く耐え忍び、決断するべきは速やかに決断すること。堅忍(けんにん)は堅く耐え忍ぶことで、果決(かけつ)は思い切りのよい意味」であると解説されていました。
さらに検索すると、吉田松陰(しょういん)が松下村塾(しょうか-そんじゅく)の規則として掲げた「士規七則」の中にも、武士の心得として「堅忍果決(けんにん-かけつ)」という言葉が掲げられていました。
このような「陽」という発展分化の働きと、「陰」という選択と集中の働きのバランスを取ることによって「全(まつた)き生、永遠の生、永生、全生が期待される」と安岡先生は解説されています。