『禅と陽明学』より「儒教と老荘と禅」
安岡正篤先生は、『禅と陽明学』の中で、この世界の根本的な発展法則を「易」(えき)の思想をもとに解説されています。
「太極(たいきょく)」という根本的な大自然の生命力が、陰陽の原理によって、生命が進化するように発展していくというとらえ方です。
「陽」とは、木が、四方八方に枝を伸ばすように、分かれて発展する働きです。
それに対して、「陰」とは、木の根っこや幹にあたる部分で、文字通り根幹をなすもの、文化発展する枝葉を統一する働きです。
分化の働きを示す「陽」に対して、統一の働きを成すものが「陰」であると説明されています。
この二つの働きがバランスよく行われることによって、無限の生成発展が可能になるわけです。
安岡先生は、発展分化(陽)と統一(陰)の働きのバランスが取れて、さらに高次元に進歩することを「中」(ちゅう)と説明されます。
>人間の生命も必ず相対〈待〉性理法が存在している。
>そういうふうにして無限に発展する。
>これを「中(ちゅう)」という。
(『禅と陽明学』p.155)
アインシュタインの相対性理論は、現代物理学における基本法則です。宇宙のあり方に決定的な影響のある重力の働きを説明しています。
科学的な宇宙論の世界では、20世紀前半に発見されたアインシュタインの相対性理論は、重力の働きを説明する最も基本的な理論として、100年たった今も、それを凌駕する科学理論は現れていないようです。
安岡先生は、アインシュタインの相対性理論を比喩的に借りて、人間界も「相対性理法」によってできているといわれます。
ここでいう「相対」は、一見対立する働きに見える陰陽の二大原理がお互いに関係し、バランスが取れることを意味しています。
そこで、「相対性」を仏教用語の「相待」の字を借りて、「相待性(そうたいせい)」とも表現されています。
仏教用語の「相待」(そうだい、と濁って読みます)は、二つのものがお互いに関連して、相互依存して存在する有様を表現する言葉です。
したがって、安岡先生の言われる「相対性(相待性)理法」は、
陰陽の単なる対立ではなく、「陰」と「陽」の二つの働きが
より高いレベルで総合されることで、
世界は進歩発展するという意味が込めれられているのだと思います。