『禅と陽明学』(安岡正篤著)について
安岡正篤先生の『禅と陽明学』(上下2巻、プレジデント社)は、上下巻合わせて800ページを超す大講義です。
編集後記によれば、昭和37年から昭和41年まで40数回にわたってなされた講義録に、昭和46年および昭和47年の陽明学に関する講義録をあわせて編集されています。
主たる講義は、安岡先生が60代になされており、最後の陽明学の講義は70代ですから、円熟の極みというべき講義録になっております。
もともと、安岡先生は、儒教、老荘、仏教など現れる形は異なっても、「奥へ入っていけば真理は一つ、諸教は帰するところ、みな同じである」という大見識をお持ちになっておられました。
そこで、インドに発した仏教が、中国および日本においてどのように取り入れられていったか、仏教が中国の儒教や老荘思想とどのように影響しあって発展したのか、その精神の流れを歴史的に追って、禅と陽明学の真髄を明らかにしようという壮大な目的にもとに、一連の大講義をされたそうです。
とはいっても、現代的な厳密な文献学による思想史を描こうとしたのではなく、あくまでも、安岡先生が自らの精神形成の過程で理解された禅や陽明学について講義されておられます。
アカデミックな研究のような厳密ではあるが、古典を過去のものとして研究対象にするある種の冷たさを感じる講義ではありません。
むしろ、現代に古典の教えを生かそうという姿勢で講義されており、読者も、安岡先生の熱誠あふれる見識を味わうべき本であろうと思います。
このブログでは、安岡先生が、主として仏教および禅について講義された箇所から、ごく一部を引用して、私の感想を書こうと思います。
当たり前ですが、安岡先生と私のような凡夫とは、知識においても、見識においても、桁違いの差がありますので、安岡先生の大講義の内容を正確に要約してお伝えすることは、とてもできません。
安岡先生の『禅と陽明学』は、安岡教学の中でも、最大の講義録の一つでしょう。分量が多いだけではなく、講義の内容も高度なので、初心者向けの本ではありません。
しかし、安岡先生の他の本に親しんでおられる方は、みずから『禅と陽明学』をお読みいただければ、安岡教学の規模の壮大さをまざまざと実感できるのではないかと思います。