今東光の毒舌人生相談-その4「バカになれ」1
今東光師(こん-とうこう、1898生―1977没、天台宗大僧正、中尊寺元貫首)の『毒舌身の上相談』(集英社文庫)には、職場の上司との人間関係に悩む相談とその回答がいくつかあります。
その中から、部下である自分を何かとバカにする上司に関する相談をご紹介しましょう。
この相談者は、
「自分は学歴も悪く、たしかにバカだが、
仕事に対しては、自分なりに一所懸命に努力している」
といいます。
そのような人に対して、ちょっと失敗すると笑って、バカにする上司がいて、
「お前は頭の回転が遅すぎる」とか
「お前は人が良すぎる。もっとずるくなれ」と言ってくるそうです。
それに悩んだ若者は、「俺は本当にバカか?」という相談の手紙を送りました。
それに対する今東光師の回答は、以下のようなものです。
「バカ正直だと損をする。もっとずるく悪賢く立ち回れ」
なんてよく人が言うけど、
その言っている野郎が、ずるく悪賢く立ち回って成功しているかというと、絶対にそうじゃねんだな。
そんなのはダメなんで、真実、火の玉になって人生を渡っていって、
社会にぶつかっていくんじゃなけりゃあダメなんだよ。
人が良すぎて結構じゃねえか。
そんなタワ言ぬかす野郎なんぞ、相手にするな!
頭の回転が早いとか、遅いとかなんていうのは、くだらんことでね。
本当の大事にぶつかった時に頭の回転が早くなけりゃあ、
くその役にもたちゃしねえんだ。
そんなくだらんことにいちいち腹を立ててないで、
てめえは、てめえなりに心の修行をつんでりゃいいんだ。
そんなことを言う野郎は、相手にするな。
「ずる賢く立ち回ろう」などと考えずに、
「真実、火の玉になってぶつかれ!」
「自分をバカにされても、そんことにこだわらずに、
自分の心の修行に励め!」
というのが、今東光師の回答です。
ちょっと乱暴ですが、一言に縮めれば、
「バカになれ!」というアドバイスです。
「バカになる」ということは、普通は、悪い表現でしょうが、
じつは、禅道場では、ほめ言葉に使われることがあります。