無門関第35則「せい子が二人に分身した」
『無門関』第38則「倩女離魂(せいじょ–りこん)」(せい子が二人に分身した)が、題材としている、当時(11世紀)の中国ではやった怪奇小説の筋書きをご紹介しましよう。
むかしむかし、衡陽(こうよう)という所に張鑑(ちようかん)という人いました。娘の倩(せい子)は非常に美人で評判でした。
父の張鑑(ちようかん)の甥(おい)である王宙(おうちゅう)もまた美男子でした。
あるとき、張鑑(ちようかん)は、二人の仲が良いのをみて、戯(たわむ)れに「娘が大きくなったら、倩(せい子)を君の妻にやるぞ」と約束しました。青年は、大いに喜び、娘も将来を楽しみしていました。
ところが、たまたま、地位の高い役人から娘を嫁にほしいと望むものがでてきました。
張鑑(ちようかん)は、「これは、役人に取り入るチャンスだ!」
とばかり、前言など忘れて、娘の倩(せい子)を役人に嫁がせることにしました。
これを知った青年も娘も不愉快でたまりません。
娘は、すっかりうつ病になって、寝込んでしまいました。
青年も、約束をやぶった張鑑(ちようかん)を恨んで、他国へいって働こうと川舟に乗って故郷を離れることになりました。
青年が、船に乗ってしばらく行くと、夜半に岸の上から自分を呼ぶ声がきこえます。見れば、それは恋しい倩(せい子)でした。
青年は自分を追いかけてきてくれた娘の気持ちをうれしく思い、つい二人は、駆け落ちすることにして、蜀(しょく)の国にいって夫婦生活を始めました。
およそ五年ほど、二人で楽しく暮らし、子供もできました。しかし、ある日、倩(せい子)が、故郷に残した両親のことを思い出して、夫となった王宙(おうちゅう)に言いました。
「こうして私たちは幸せに暮らしているけれども、父母の許しなく、駆け落ち結婚したことには、胸が痛みます。
父も母も、勝手に家出した私のことをさぞかし心配しているでしょう。
子供もできたことだし、一度、帰国して父母にお詫びをして、あらためて結婚のお許しを願いたいと思います。」
そこで夫婦は子供二人をつれて、はるばる故郷へ帰ることにしました。
(つづく)
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(千代田区立の公民館)