無門関第38則「牛が窓をとおる」

2014-08-12

無門和尚(むもん-おしょう)の評唱の中間部ですが、原文では、

もって上(かみ)四恩(しおん)を報(ほう)じ、

下(しも)三有(さんぬ)を資(たす)くべし。

という難しい言葉が出てきます。

これは、臨済宗のお経本にでている「回向文(えこうもん)」にも使われている表現で、臨済系のお経になじんでいる人には、なじみ深い表現でもあります。

「回向文(えこうもん)」とは、お経を読んだ法要などの終わりにとなえる詩的な文章で、仏事を行った功徳(くどく)を己(おのれ)だけのものにすることなく、広くご縁のある人々に回りめぐらすために読誦(どくじゅ)されます。

宗派によって、「回向文」は異なるのですが、禅宗の一派である臨済宗では、最も一般的な「回向文(えこうもん)」のなかに、「上(かみ)四恩(しおん)を報(ほう)じ、下(しも)三有(さんぬ)を資(たす)け・・・云々」という表現が出てきます。

「四恩(しおん)を報じ」とは、「四つのご恩に報いる」という意味です。

ここでいう「四恩(しおん)」、つまり「四つの恩」とは、仏教でいう「父母の恩」「国王の恩」「衆生(しゅじょう)の恩」「三宝(さんぽう)の恩」の四つを言います。

まず、「父母の恩」とは、自分を育ててくれた人へのご恩です。本来は、父母から受けた愛情へのご恩ということですが、現代では、離婚が珍しくないので、「父母の恩」を素直に感じ取れない方もおられると思います。
しかし、自分がこの世に生まれるために父母の力があったことは間違いないので、「この世に生を受けたご恩」と理解しておきましょう。

「国王の恩」とは、国王に代表される政治のご恩という意味です。
近代以前、仏教が生まれたインドでも、中国でも、国王や皇帝が政治を担い、優れた国王の統治下では、その力で平和が保たれていました。

現代には、国王が統治する国はほとんどないと思いますし、政治家のご恩を感じることも少ないと思いますが、政治・経済・情報を含めた社会全体から受けるご恩と理解しておきましょう。

人間は、本来、社会的な生物であり、私たちは、誰もが、衣食住すべての面にわたって、社会と多くのものをやり取りして生きています。

日本のような近代的な複雑な社会では、社会と個人との関わりなしに生きて聞くことは、ほとんど不可能です。そのことを謙虚に受け止めなさいということでしょう。

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