超越と日常
2015-09-23
■自ずから道理にかなう(1/3)
ホウ居士は、最初の悟りを開いた後も、さらに悟りを深める修行をつづけまいた。
ある日、石頭禅師(せきとう-ぜんじ)から、
「悟りを開いてから毎日をどのように過ごしているのかね?」
と質問されます。
これは、日常的な質問ではなく、禅的な心の境涯を点検する問いです。
それに対して、ホウ居士は、次のように答えました。
「悟ったからといって、格別のこともありません。
ただ、日々の生活のことをあれこれ考えこまずに、
スラスラとやって、
それが自ずから道理にかなうようになっただけです。」
悟りを開いたからといって、特別な神通力(じんつうりき)や超人的な能力を得るわけではありません。
あれこれ考えすぎたり、悩みすぎたりすることなく、
人間が本来持っている心の力を素直に発揮できるようになる
ということをホウ居士は答えたのでした。
ホウ居士の答えは、中国の伝統に従って、禅的な漢詩の形で示されました。
その漢詩の内容が素晴らしかったので、師匠の石頭もホウ居士の進歩を認めました。
その上で、「お前は、出家する気はないのか?」と問いました。
しかし、ホウ居士は、「私の好きなようにしたいと思います。」といって出家せず、生涯を在家の禅者として過ごしました。
のちに、結婚して、子供を二人育てたと伝わっています。
そのような所も、家族を大事にする中国や日本で、ホウ居士が偉大な禅者として尊敬されている理由かもしれません。