『新緝 森信三全集』について

2013-11-20

プロフィールで分かるように、森信三先生は、大正12年に京都帝国大学(現在の京都大学)の哲学科に入学しました。

京都大学では、日本で最初に独創的な新しい哲学を築かれた西田幾多郎(にしだ-きたろう:1870年生れ―1945没)博士に大学院まで7年間も親しく教えを受けました。

森信三先生は、西田幾多郎博士の愛弟子の一人ということになります。とはいえ、森信三先生は、西田哲学をそのまま受け入れたわけではなく、あくまで自己の哲学を求められました。

それでも、大きな影響を受けたことは間違いなく、晩年にいたるまで、広島高等師範で指導を受けた西晋一郎先生と西田幾多郎博士については、深い敬愛の念を自著に書かれています。

戦前(太平洋戦争前)までの日本には、帝国大学と称する9つの大学およびその大学院があり、当時の最高学府でした。

日本国内には、設立順に東京大学、京都大学、東北大学、九州大学、北海道大学、大阪大学、名古屋大学の七大学がありました。
それ以外に、当時日本の植民地であった韓国のソウルに京城帝国大学(現在のソウル大学)、おなじく台湾の台北にあった台北帝国大学(現在の台湾大学)があり、帝国大学はあわせて9校です。

森信三先生が、京都大学に入学された大正12年の段階では、まだ東京大学、京都大学、東北大学、九州大学、北海道大学の5つの帝国大学しかありません。
大阪大学や名古屋大学は昭和になってからの設立ですから、大正時代の京都帝国大学の地位は極めて高いものがありました。

さらに森信三先生の学問の師であり、森先生が終生敬愛した西田幾多郎博士は、明治44年に刊行した『善の研究』(現在は、岩波文庫などで手に入ります)によって、西洋の哲学者の解説にとどまらない独創的な独自の哲学を日本で最初に打ち出した日本哲学界の巨人です。

戦前までの旧制高校生や大学生にとっては、専門分野にかかわらず、
西田博士の『善の研究』は、必読の教養書として広く読まれました。

西田幾多郎博士の『善の研究』は、自らの参禅体験をもとに、禅的な認識論を西洋哲学の枠組みで説明したものです。

私も、学生時代、禅道場に熱心に通っていた時期に『善の研究』を読みました。途中の複雑なロジックはあまり理解できなかったものの、西田博士が伝えようとしている「純粋経験」の内容が、自分の禅的体験とぴたりと重なり合うことに感動しました。
また、熱気あふれる独特の文体と相まって、西田博士の言いたいことがひしひしと迫ってくるような感覚を覚え、大変興奮しながら読んだ記憶があります。

西田博士は、生前から世間的に大変有名であり、開戦時の首相であった東條英機から演説の草稿について意見を求められたり、晩年の1940年には文化勲章を受章されたりしています。

西田幾多郎博士は、教育者としても優れており、京都学派と呼ばれる優れた哲学者が京都大学にたくさん育ちました。

西田博士とその弟子たちの活躍により、東京大学以上に京都大学は日本の哲学研究のメッカでした。

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