『禅と陽明学』より「儒教と老荘と禅」

2014-03-30

それでは、分化のし過ぎによる混乱や破滅を防ぐには、どのようにすればよいのでしょうか。そのあたりのことを安岡先生は以下のように解説されています。

>大事なことは、これを大枝に結び付け、
>幹に根を結びつける働き
>すなわち、陰の働きである。
(『禅と陽明学』上巻p.157)

枝葉末節の動きを大きな枝や根っこに結びつけることによって、全体がエネルギーを取り返し、生き生きとしてきます。

>人間の堕落(だらく)、頽廃(たいはい)、破滅というものは、
>多く行きっきりになるところにある。
>どうしても現実的になりすぎることにある。
(『禅と陽明学』上巻p.158)

「行きっきりになる」「現実的になりすぎる」とは、成功パターンにこだわりすぎて、環境変化についていけないことを言われているのだと思います。人が大きな失敗をするのは、しばしば、やりすぎるからだということでしょう。

生物の歴史を見ても同じことが言えそうです。6千万年前、地球で最も繁栄していた生物は、恐竜でした。そのころの哺乳類(ほにゅうるい)は、小さなネズミのような生き物で、恐竜の陰に隠れてひっそりと生きていました。

ところが、巨大隕石(いんせき)の衝突により地球全体が寒冷化したとき、温暖な環境に適応しすぎていた恐竜は、あっけなく滅亡してしまいました。

まだ進化の初期段階にあった哺乳類(ほにゅうるい)は、寒冷化に適応できたので、恐竜が滅んだあとの地球を支配する生物に進化できました。

その哺乳類の中から、私たち人間が現れました。人間を一つの動物としてみたら、鋭いキバもなく、身体を守る体毛もなく、空を飛んだ入り、水中深くもぐったりという特殊な能力のないわけですから、人間はじつに弱い存在です。
人間は、動物として弱いからこそ、道具を工夫し、地球で最も繁栄する生物になったのだと思います。

人間社会も同じではないでしょうか。学生時代には、弱い存在だったからこそ、人一倍、工夫して成功される方はたくさんいます。
その最高の例が、小学校中退で、世界のパナソニックを一代で作った松下幸之助さんでしょう。

パナソニックやソニーなど日本の家電メーカーは、20世紀には、欧米企業をおいかけ、追い越して世界を圧倒しました。ところが、今や、後から追いかけてきたサムスンなどの韓国や中国の企業に苦しめられています。

このような例を見ると、「人間の堕落(だらく)、頽廃(たいはい)、破滅というものは、多く行きっきりになるところにある。」という安岡先生の教えは、痛切な響きをもって私たちに迫ってきます。
これは、一つの歴史法則なのではないでしょうか。

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