無門関第45則「他是阿誰(たぜ-あた)」

2014-08-06

柴山全慶老師(しばやま-ぜんけい-ろうし)の解説のように、この「頌(じゅ)」は、深い禅的な意味が込められています。

しかし、そのような禅的な深い意味を読み込まなくても、この「頌(じゅ)」だけ取り出して味わっても、大変良い言葉です。

明治の大禅匠である釈宗演(しゃく-そうえん)禅師は、「(この頌は、)座右(ざゆう)の銘(めい)にしてもよい」と書かれています。

ちなみに、釈宗演(しゃく-そうえん)禅師は、鎌倉の円覚寺の元管長であり、明治時代を代表する禅僧です。僧侶ではない在家者の禅についても、大変理解があり、在家の指導にも力を入れた方でした。

世界に日本の禅を広めた鈴木大拙(すずき-だいせつ)も在家の禅者ですが、その師匠でもあります。
また、夏目漱石(なつめ-そうせき)が釈宗演(しゃく-そうえん)禅師に参禅し、自分の参禅体験を『門』という小説に書いています。

さて、釈宗演禅師の『無門関講話』(昭和4年、平凡社版「釈宗演全集」より)より、この「頌(じゅ)」についての解説を紹介しましょう。

まず、宗演(そうえん)禅師は、「頌(じゅ)」の前半の二句
「他人の弓は、引いてはならぬ、
他人の馬は、騎(の)ってはならぬ。」
について、次のように書かれています。

「おれは哲学を学んだ、これも知っていると言うているが、
みな人のもので、自分の肚(はら)から生み出したものとては、
一つもない。

いくらいばっても、他の弓をひいているのだ。
他の馬にのっているのだ。」
(釈宗演『無門関講話』平凡社版全集より)

私たちは、たくさんの知識を持っていますが、ほとんどは先人の知恵であり、自分が発見したものは、ほとんどないといってよいでしょう。

私たちが先人の知恵を借りて仕事をし、生活をしていることを「他の弓をひき、他の馬にのっている」というと宗演禅師は解説されます。

先人の知恵を学んで、自分が直面する現実に応用していくことは、悪いことではありません。むしろ、現実社会で成功するための大きな秘訣といってもよいでしょう。

さらに優れたリーダーは、積極的に周りの人から知識や情報や知恵を集めます。まわりの人の力を引き出して、それを集めて、チームを成功に導く人こそが優れたリーダーといえるでしょう。

宗演禅師(そうえん-ぜんじ)が問題にしているのは、しばしば私たち凡夫は、自分の成功や能力に酔って高慢になりがちであることでしょう。

成功することや、高い能力を持つことは大変よいことですが、先人の知恵やたくさんの人の協力があってのことであることを忘れてはいけないと、宗演(そうえん)禅師は、私たちに注意しているのだと思います。

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