無門関第45則「他是阿誰(たぜ-あた)」
まず、第45則の主人公である五祖法演禅師(ごそほうえん-ぜんじ)から修行者(および読者)に向けて投げかけられた本則(公案)から確認していきましょう。
<本則:原文>
東山(とうざん)演師祖(えん-しそ)日(いわ)く、
「釈迦(しゃか)弥勒(みろく)は、
猶(な)お 是(こ)れ 他(た)の奴(ぬ)。
且(しば)らく道(い)え、
他は、是(こ)れ 阿誰(あた)ぞ?」
<本則:現代語訳>
東山(とうざん)の法演(ほうえん)禅師が言われた、
「釈迦(しゃか)・弥勒(みろく)といえども、
まだ、彼の奴隷(どれい)にすぎない。
ではいったい彼とは、誰のことか? 言ってみよ」。
(岩波文庫・西村恵信訳より)
東山(とうざん)とは、五祖山(ごそさん)の別名です。東山(とうざん)の法演(ほうえん)禅師(ぜんじ)とは、一般には、五祖法演(ごそ-ほうえん)禅師といわれています。中国宋代における「臨済宗(りんざいしゅう)中興(ちゅうこう)の祖(そ)」と称される偉大な禅僧です。
その法演(ほうえん)禅師(ぜんじ)が、弟子たちに公案(禅の問題)を提起しました。
「お釈迦さまも、弥勒菩薩(みろく-ぼさつ)といえども、
まだ「他(かれ)」の奴隷に過ぎない。
いったい、誰の奴隷なのか?
(いったい、「他(かれ)」とは、誰のことか?)」
お釈迦さまとは、仏教の開祖であり、仏教徒があまねく信じ、尊敬する存在です。
また、弥勒菩薩(みろく-ぼさつ)とは、仏教のお経によれば、お釈迦さまがお亡くなりになってから、56億7千万年後に人間界に降臨して人々を救う未来の仏さまです。人間界に降臨するまでは、兜率天(とそつてん)で修行し、また天人を相手に説法をしているとされます。
弥勒菩薩(みろく-ぼさつ)といえば、京都の広隆寺にある国宝の半跏思惟像(はんか-しゆい-ぞう)が有名ですが、あれは、弥勒菩薩(みろく-ぼさつ)が兜率天(とそつてん)で思索されている姿を想像して作成されたものです。
お釈迦さまというこの人間界を指導する無上の仏さまと、弥勒菩薩(みろくぼさつ)という未来において人間界を指導する仏さまとをならべて、仏教の教えに表れる「あらゆる仏さま」を象徴して言っています。
つまり、阿弥陀(あみだ)さまも、観音さまも、不動明王も、お寺で本尊として大切にしている仏さまは、すべて「他(かれ)」の奴隷だというのです。