無門関第45則「他是阿誰(たぜ-あた)」

2014-08-03

まず、第45則の主人公である五祖法演禅師(ごそほうえん-ぜんじ)から修行者(および読者)に向けて投げかけられた本則(公案)から確認していきましょう。

<本則:原文>

東山(とうざん)演師祖(えん-しそ)日(いわ)く、

「釈迦(しゃか)弥勒(みろく)は、

猶(な)お 是(こ)れ 他(た)の奴(ぬ)。

且(しば)らく道(い)え、

他は、是(こ)れ 阿誰(あた)ぞ?」

<本則:現代語訳>

東山(とうざん)の法演(ほうえん)禅師が言われた、

「釈迦(しゃか)・弥勒(みろく)といえども、

まだ、彼の奴隷(どれい)にすぎない。

ではいったい彼とは、誰のことか? 言ってみよ」。

(岩波文庫・西村恵信訳より)

東山(とうざん)とは、五祖山(ごそさん)の別名です。東山(とうざん)の法演(ほうえん)禅師(ぜんじ)とは、一般には、五祖法演(ごそ-ほうえん)禅師といわれています。中国宋代における「臨済宗(りんざいしゅう)中興(ちゅうこう)の祖(そ)」と称される偉大な禅僧です。

その法演(ほうえん)禅師(ぜんじ)が、弟子たちに公案(禅の問題)を提起しました。

「お釈迦さまも、弥勒菩薩(みろく-ぼさつ)といえども、

まだ「他(かれ)」の奴隷に過ぎない。

 いったい、誰の奴隷なのか?

(いったい、「他(かれ)」とは、誰のことか?)」

お釈迦さまとは、仏教の開祖であり、仏教徒があまねく信じ、尊敬する存在です。

また、弥勒菩薩(みろく-ぼさつ)とは、仏教のお経によれば、お釈迦さまがお亡くなりになってから、56億7千万年後に人間界に降臨して人々を救う未来の仏さまです。人間界に降臨するまでは、兜率天(とそつてん)で修行し、また天人を相手に説法をしているとされます。

弥勒菩薩(みろく-ぼさつ)といえば、京都の広隆寺にある国宝の半跏思惟像(はんか-しゆい-ぞう)が有名ですが、あれは、弥勒菩薩(みろく-ぼさつ)が兜率天(とそつてん)で思索されている姿を想像して作成されたものです。

お釈迦さまというこの人間界を指導する無上の仏さまと、弥勒菩薩(みろくぼさつ)という未来において人間界を指導する仏さまとをならべて、仏教の教えに表れる「あらゆる仏さま」を象徴して言っています。

つまり、阿弥陀(あみだ)さまも、観音さまも、不動明王も、お寺で本尊として大切にしている仏さまは、すべて「他(かれ)」の奴隷だというのです。

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